斜視の手術

とりおが生後3ヶ月から通っているのが、市内にある羅(ら)眼科というところ。
電柱広告などでよく見かけるのではないでしょうか。

名前から想像できる通り、先生は中国の方。
以前はこども病院に長く勤めてらしたようです。
新聞や雑誌にも何度か取り上げられたことのある、小児眼科の権威。

待合室はいつも大勢の患者さんでごった返しています。予約をしていても待ち時間が1〜2時間なのは当たり前。
関東や関西、県外からわざわざ来ている方も多いです。

とりおの場合、生まれつきの寄り目で、病名は乳児内斜視。
原因は人それぞれさまざまのようですが、彼の場合は生まれつき、左目を内側に引っ張る筋肉が強いとのことでした。
左目が内側に寄る→視線が内に寄る→右目の視線と交差してしまう。
となると、脳は自動的に交差してくる視線、つまり左目の視線をシャットアウト(抑制)し、左目を使わなくなってしまう。
片目を使わない状態が続くと、当然視力に差が出て、使わない目が弱視になってしまうのです。

とりおは、幸い生後3ヶ月という早い段階で斜視であることに気づき治療を開始したので、弱視になるという可能性は低くなったようです。

治療という名の訓練は、使わない目を使わせること。
使わせることで、目を外側に向ける筋肉を発達させること。
アイパッチを使い、メガネを使い、8ヶ月ほど訓練しました。

8ヶ月の間に、左目をだいぶ使うようになり、時々気づくと左目が真ん中にあり右目が寄るという状態が見られました。
交代斜視になってきたのです。右目ばかりではなく、交代で左目も使うようになってきたということ。
良いことだよと先生に言われたときはうれしかったです。
ただ、両目でものを見ることはできず、片目ずつ交代で見たり、時々は両目とも寄ることもありました。

最終手段である手術を、1歳前に行うのが良いか悪いかは、医師によっては見解が分かれることのようです。
私たち夫婦には迷いはありませんでした。
ら先生の言う通りにしてここまで良くなったのだから、手術のタイミングも先生に任せよう。



手術日の1週間前、術前検査がありました。
尿検査、血液検査、胸のレントゲンです。

もう少し年齢の大きな子供の斜視手術は、全身麻酔でも日帰りでできるそうですが、とりおは1歳に満たない赤ちゃんなので前日と当日は念のため入院することになりました。
ら眼科には入院施設がないので、市内にある静岡厚生病院へ入院。
手術はら眼科で行うのですが、病院側での送迎は特にないため、自家用車を使いました。

前日は午後3時に厚生病院へ入院。
病室へ案内されるや否や、点滴の針を刺しますのでお母さんは病室でお待ちくださいねーと言われ、とりおはナースステーションに連れて行かれる。看護婦さんに抱かれた瞬間から大泣き。
息子の泣き声を遠くで聞きながら、病室で一人ポツンと落ち着かない私。

戻って来た彼の左手には点滴の針。
病衣に着替えさせられ、なんだか急に入院/手術が現実の物として迫って来た感じでした。

夜には初めて食べる病院食の離乳食。
ふーん、こういう調理方法でいいんだーなどと離乳食作りの参考にする私。
8割くらい平らげたとりおは、急に電池が切れたように私に抱かれて眠ってしまった。
緊張してたんだろうなー。そんな時間に寝ることなんていつもはないのに。

仕事を終えた夫が病室に来たので、とりおを起こさないようこそこそと二人で弁当を食べる。
面会時間は8時まで。夫が帰ってしまうと、ちょっと心細かったのは内緒である。

とりおを寝かしつけ、横で添い寝をする。
眠れない。色々考えて眠れない。看護婦さんがちょこちょこ様子を見に来るので眠れない。
手術当日は絶食のため、最後の水分補給は午前3時まで。
1時30分頃にとりおが泣いて起きたので授乳。また眠りに戻る彼の横で眠れない私。
午前3時になると、点滴開始。絶食だと脱水症状を起こしやすいので、体内循環を良くする為の輸液の点滴。
午前5時、とりおが目覚めた。
いつものこの時間はまた授乳するのだけど、今日はできない。泣くとりお。ごめんよー。
抱っこしたりおんぶしたりしてごまかしながら、私も着替えて支度をする。

午前6時30分。夫が迎えにくる。ら眼科へ車で出発。
とりおは泣き疲れて眠っている。

午前7時。麻酔科の医師による診察。
レントゲン写真を見て、血管が結構太いね、骨も太いよ、気管は狭いけどねーなどとコメントしてくれた。
麻酔に関する説明を受け、承諾書にサインをする。

次にら先生の診察。
一発で治してあげるよ、という言葉をもらい勇気づけられた。

手術室のベッドまで私が抱いていった。
寝かせると、不安そうな顔で泣き出すとりお。
手を握ってあげても、私の方を見ては「なんでー?なんでー?」という顔で大声で泣く。
そんなとりおの口元にマスクがかけられる。
中からは鎮静剤。
えーんえーん、と泣いていた声がだんだん小さくなり、ふっと意識がなくなる。
この瞬間が見ていて一番つらかった。
待合室で待つ間も、この瞬間のとりおの姿が頭から離れなかった。

でも、これは簡単な目の手術。
これが例えば内臓疾患を治療するための、難しい開胸/開腹手術だったとしたら・・・。
そんなお子さんを抱えているお父さんお母さんの気持ちを考えたら、なかなか朝食をとる気になれなかった。

約2時間後、手術が終了。
ら先生から、きれいに治したよ、と言ってもらって本当にほっとした。
麻酔から覚めるまで、眠るとりおを見守って待つ。
手術が終わってから約2時間、ときどき寝ぼけたように泣いたり動いたけれど、それ以外はずっと眠っていた。
少し水分補給をしてみましょうと看護婦さんに言われ、ようやくとりおを起こす。

何事もなかったように私に抱かれ、麦茶を2、3口、吐き出さずにストローで飲んだ。

あれ、こんなもんなのかな、もっと泣くかと思ったのに。
と思ったのもつかの間、目を覚ましたとりおはぐずぐず泣き出した。

それから1時間半。マックスパワーで泣き続けた。
抱いてもダメ。寝かせてもダメ。
こんなに長時間泣き続けさせたのは初めてのことだった。
目に感じる違和感と不快感。空腹。不安。
いろんなことがとにかく嫌そうだった。

夫と交代でなだめているうちに、泣き疲れたのか私に抱かれて眠ったとりお。
かわいそうな泣き顔。
眠ってくれているうちに私たちは遅めの昼食をとり、看護婦さんから飲み薬と目薬のやり方を教わる。

午後3時ころ、ら先生の診察。
このとき初めて、手術後のとりおの両目が開いた状態を見た私たち夫婦。

「うわ、両方とも黒目が真ん中にきてる・・・!」

今まで見たことのない彼の顔だった。

ら先生も、まっすぐに治ったねー、と言ってくれた。
このとき、やっと胸の奥にあったどんよりとしたものがふっと消えたような気がした。
やっと晴れ晴れとした気持ちになれたのだ。

厚生病院に戻る車の中、再び眠ってしまったとりお。
その寝顔を見て、とても穏やかな気持ちになった。
と同時に何だか急に疲れがやってきたような気がする。

厚生病院に着き、小児科の医師にもう授乳をしてよいか訪ねるとオッケーとのこと。
このときの授乳の感覚はずっと忘れられないなー。
母子ともに心底ほっとした瞬間。

晩ご飯は再び病院食の離乳食。
モリモリ食べるとりお。お腹すいてたんだなー。そりゃ朝から絶食だものなー。

前夜からほとんど寝ていなかった私の疲れも最高潮。
消灯時間が過ぎ、とりおを寝かしつけたあと、爆睡・・・と思いきや、興奮して眠れない。
今までのことを色々考えたりして、眠れない。
携帯から、ブログに寄せられたみんなのコメントを読み返し、あったかい気持ちになった。
そしてようやく眠りについた深夜2時。そこから朝の7時まで、待ってましたの爆睡。
疲れ果てていたとりおも、いつもなら2時間おきに泣いて起きるのに、この日は5時間続けて眠った。

翌朝、清々しい気持ちで目覚め、朝食をとり、厚生病院を退院し、再びら眼科へ。
いつも通り混雑していたけれど、術後の診察ということで待ち時間ほとんどなしで診てもらえた。

経過は順調とのこと。腫れもひどくないし、出血もない。眼位も良好。
また月曜日に見せに来てくださいとのこと。

そしてようやく家に戻ったのでした。

退院後のとりおは、周囲を不思議そうに見回す姿が印象的でした。
きっと、今まで見たことのない世界が彼の前に広がっているのだと思います。
両方の目で、いろんなものを見て、脳が刺激されているのかな。
ニコニコうれしそうな顔で動き回っています。

何より、二つの目でまっすぐに私を見つめてくれる彼の顔を見ることができて、本当にうれしい。
前よりも笑顔が増えたこともうれしい。

生まれつきの斜視の子供の手術は、一度で終わらないことも多いそうです。
成長とともに目の大きさや発達度合いも変わってくるので、二度三度と微調整をして眼位を整えるのだとか。
月曜日に受診したとき、ら先生は「この子はラッキーだよ。すっかり真ん中に治っちゃったじゃない。」と言ってくれたけど、あまり有頂天になりすぎるのは怖いので、いつかまた手術をしなければいけないかも、という覚悟だけは胸の中に持っておきたいと思います。
両眼視機能が本当に出来ているのかも、もう少ししなければ評価できないし、きちんとした視力検査も2歳くらいにならないとできないのだし。

でも今は、胸を撫で下ろしている私。

最後に、ブログにコメントをくれた皆さん、手術の日の朝、励ましのメールをくれた皆さん、応援tweetしてくれた皆さん、心の中で気にかけてくれてた(に違いない)皆さん、本当にありがとうございました。
今月いっぱいは、目を保護するためのプラスチック眼帯というゴーグルみたいなのをつけているとりおですが、またそのうち皆さんのとこに連れてきますー。また遊んでくださいね。


2010年09月15日 Posted byYuna at 22:20 │Comments(11)

この記事へのコメント
とりおくん、頑張ったね!
この8ヶ月間のYunaちゃんの気持ちを考えると、胸を撫で下ろしているという言葉を読んでとてもうれしく思います。
私には、はかりしれない位、たくさん悩んできたと思うから。
でも、いつもYunaちゃんは笑顔だった。
たくまししい、お母さんの顔でしたよ。
辛かった事を乗り越えて、家族の絆は更に強くなっていくと思います。
また、とりおくんと会える日を楽しみにしてるよ〜
Posted by まゆげ at 2010年09月15日 23:47
皆さんよくぞ頑張ったと言う一言です。

親ではない"子供"の俺にとって、
決して日常判りえない親の情を見れたよ。。。

なんだか朝起きて大喧嘩したのを反省しました。
ありがとう、Yunaさん☆

また逢えるのを楽しみにしてるに同意の下に一名。
Posted by アキラ。 at 2010年09月16日 20:55
>まゆげさん

8ヶ月の間、大野カメラ店で店長やまゆげさんやお母さんとお話して、どれだけ気持ちを楽にさせてもらったことかー。
いつもありがとうございます。
手術から一週間で、何だかすごく成長したとりお氏をまた見てやってくださいねー。

>アキラくん

ありがとう。
そう言われると新鮮だー。私だってまだまだ子供なのでね、親と衝突することも多く、そんなときは自らも親だということをうっかり忘れちまうよー。

男の子と母との関係、大きくなった時はどんなんだろう。
また今度会った時は、お母さんに求める(た)ことなど教えてね。参考にしちゃうから〜。うふ。
Posted by Yuna at 2010年09月16日 21:17
本当に、眠れない夜がたくさんあって、いろんな悪い事をたくさん考えてしまった8カ月だったかもしれないね。
でも、それは家族の絆になって、これからは良い形で残っていくものね。
本当に、おめでとう!お疲れ様!新世界の中のとりお氏に万歳!!
我が子の、辛い所を見るのは凄く悲しいけど、笑顔が増える事はとにかく嬉しいね。本当に、本当に、良かった。
これからも、生きてる以上はいろんな事があると思うけど その度に絆を深めて、頑張って生きたいね。
あたしも、驕る事無く、頑張ります!
Posted by 白ダルマ at 2010年09月16日 23:06
お疲れ様でした(^ ^)

親なんてうるさい!って思うこともたまにあるけど、Yunaさんのブログ読んだらもっと大切にしなきゃいかんなーって思えました。

きっとうちのお母さんも、手術はないにせよ不安だったんだろうなって…

結局そんなひどくなかったから途中放棄したために若干の視力の差は認められるものの生活には支障がないので良かったです

とりおくんがこれからもげんきに成長してくれるのを、楽しみにしてます♪( ´θ`)ノ
Posted by チェルシー at 2010年09月17日 00:30
前回のLWCの帰りの電車の中で、『9月に手術するんだ』って聞いてから、気にかけていました。
でも、ホントに良かったね。頑張ったね。
【手術する事に迷いはなかった】といっても、苦しかったよね。
承諾書にサインをするのも、辛かったでしょう。
とりおクンもパパもママも頑張りました。
新しい始まりが、私もとっても嬉しいよ。
また、とりこで会えるの楽しみにしているね♪
Posted by rinberurinberu at 2010年09月17日 09:11
よかった。
私も胸をなでおろしました。
これからも、子育てしてると体のことももちろんいろいろ悩むものですよね。私もみんな一緒です。
お互い母親業、楽しみましょう!

本当に良かった。
Posted by nami at 2010年09月18日 11:17
>白ダルマちゃん

基本的には楽天家だと思っている私。
でも、小さな我が子のこととなると、ちょっといつもとは違って色々考えちゃったかなー。今となっては、考え過ぎだったよアンタ!と笑ってやりたいけど!
よく笑うようになったとりおを見てると、本当に今まで悩んだことが嘘みたい。もうすぐ一歳だよー。早!

>チェルシー

うん、お母さんもお父さんもきっと心配して色々悩んだと思うよ。だから感謝しなくちゃね、なんてうっとうしいことは言わないけど!

日常生活に支障のない範囲の視力の差で良かったよね。
ラッキーだよ。目は大切にしないと、ファインダーのぞくのに支障が出ちゃうと困るから、時々は眼科に行った方がいいかも?

>rinberuさん

あのとき電車の中でちょっと話せて、気持ちを楽にできたですよ。やっぱり心の中にあるより、外に出した方が楽になります。rinberuさんが心配してくれたり気にかけてくれてメールくれるのがうれしかったです。
承諾書にサインするのは確かに苦しい想いもありました。万が一のことが色々書いてあるし・・・。
でも今は本当に手術を早くして良かったなと思います。
今度会う時はもしかしたらとりお歩いているかもー。

>namiさん

コメントありがとうございます!
いつも思うけど、一人の子供にこんなにテンパっている私。namiさんみたいに3人のお子さんをたくましく育てているお母さんは本当に尊敬します。母親業、心も体も結構大変ですよね。でもみんなやってることだから、きっと私にも何とかできるはずーと思って頑張ってます。母親の特権を、今はとにかく楽しんでます。うふふ。
Posted by Yuna at 2010年09月20日 21:30
良かった。
ずっとこの経緯もブログで読んでいましたが
手術前のブログの記事にコメントができませんでした。
気持ちがあるのに、コメントができない気持ち。
こんな気持ちは初めてでした。
今日のブログを読んで泣けてきたり・・・。
喜ばしいことなのにね。

とにかく良かった。
Posted by まっちゃん! at 2010年09月21日 00:01
>まっちゃん!

ありがとう。
いいのよー。まっちゃんの気持ちは、手術の前だろうが後だろうが、コメントありでもなしでも、とてもうれしく私の心に届いています。私自身がこのことを書き留めておきたかったからブログに載せたんだけど、私のブログ読んで何だかどんよりした気持ちになっちゃってたらごめんよ。
Posted by Yuna at 2010年09月21日 14:14
もうすぐ1歳半の娘が斜視で手術を受けることになり、読ませていただきました。
娘も乳児内斜視で、今は片方ずつ目を使っているので、矯正の眼鏡はしておらず、一方が内側に寄ってしまっているのですが、
小学生のお兄ちゃんの友人からは「寄り目してる〜」とダイレクトに言われたり…
受診し、手術することになってもなんだか呆然としてしまっていて全く想像できない為に不安でしたが、こちらを読んで少し心構えができました。
私達もこちらを両目で見つめてくれる時がいつか来ると信じて、手術に挑みます。
詳細な記録を残していただき、どうもありがとうございます。
Posted by Anna at 2016年02月11日 15:58
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